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糖尿病

症例

内分泌科

糖尿病とは?

どうぶつの血液中にはブドウ糖が含まれていて、このブドウ糖は生命活動を営むための重要なエネルギー源として利用されています。この血液中のブドウ糖の濃度である血糖値は、ワンちゃんや猫ちゃんもヒトと同様に、上がり過ぎたり下がり過ぎたりしないように様々なホルモンによって緻密にコントロールされています。その中でも膵臓から分泌されるインスリンというホルモンは、血液中のブドウ糖を細胞内へ取り込ませてエネルギーとして利用させることで唯一血糖値を下げる役割を担っています。

このインスリンが不足したり、働きが低下したりすると血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれなくなり血糖値が高くなります。このようにして高血糖が持続してしまい、尿に糖分が出るようになった状態を糖尿病と言います。

糖尿病は様々な代謝異常を引き起こすことにより、軽度の症状から命に関わるような重篤な症状まで様々な異常を示す怖い病気です。



何故糖尿病になるの?

主に、インスリンが足りなかったり、インスリンが効かなくなったりすることが原因となります。

ヒトでは糖尿病はその原因によって大きく分けて以下の4つのタイプに分類されています。

①1型糖尿病

免疫の異常によってインスリンを分泌する細胞が破壊されてインスリンが欠乏します。


②2型糖尿病

生活習慣や遺伝的要因によってインスリンを分泌する能力が低下することやインスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)ことが原因で高血糖になります。ヒトの場合、一般に糖尿病と表現するときはこの2型糖尿病を指すことが多いです。



③その他の特定の機序、疾患による糖尿病

糖尿病以外の病気や治療薬、遺伝子異常などが原因で血糖値が上昇します。


④妊娠糖尿病

妊娠に伴うホルモンバランスの変化によって軽度の高血糖が引き起こされることがあります。

ワンちゃんと猫ちゃんでもヒトと同様に様々な原因により糖尿病が引き起こされ、大きく分けて2つに分類されています。



⑤インスリン欠乏による糖尿病

ヒトの1型糖尿病に類似した糖尿病で、ワンちゃんで多いタイプです。自己免疫や変性、膵炎などによって膵臓のインスリン分泌細胞が破壊さることや先天的な膵臓の低形成により、インスリンが欠乏することで糖尿病が引き起こされます。


⑥インスリン抵抗性による糖尿病

ヒトの2型糖尿病に類似した糖尿病で、猫ちゃんでよくみられるタイプです。猫ちゃんではヒトと同様に肥満が大きな原因となり、インスリン抵抗性が増すことで糖尿病が引き起こされます。ワンちゃんでは発情や妊娠、内分泌疾患に続発することが知られています。



糖尿病の症状とは?

軽度な場合
・多飲多尿

糖尿病ではよくみられる症状で、ご家族にとっては一番気が付きやすい症状かもしれません。高血糖が持続するとブドウ糖が多量の水分と一緒に尿として体外に排出されます。尿として多量の水分が失われてしまうので体は脱水状態になり喉が渇いて水をたくさん飲むようになります。お水を飲む量は食事や生活環境によって大きく変動しますが、ワンちゃんも猫ちゃんも1日の水分摂取量が体重1kgあたり100mlを超えている場合は明らかな多飲だとされています。


 ・多食
・体重減少
・毛並みが悪くなる

エネルギー源であるブドウ糖を細胞内に取り込む事ができないので、血液中には十分すぎるほどブドウ糖があるのに体はエネルギー不足に陥ります。そのため、エネルギー補給をしようとして食欲が旺盛になることがあります。一方で、ブドウ糖をエネルギー源として利用できない代わりに、体の脂肪やタンパク質を分解することでエネルギーを作り出そうとし始めます。このエネルギー代謝の変化によって体の脂肪と筋肉が減っていくため、たくさん食べているのに体重が減っていくという矛盾した症状がみられます。

度の場合
・食欲低下
・嘔吐
・下痢

エネルギー源として脂肪が分解される過程で副産物としてケトン体という物質が作られます。糖尿病のどうぶつでは脂肪がエネルギー源として利用され続けることで大量にケトン体が発生します。ケトン体は少量であれば問題ありませんが、多すぎる場合には血液が酸性化してケトアシドーシスと呼ばれる危険な状態になります。ケトアシドーシスになると全身のあらゆる場所で障害が引き起こされ、食欲不振や嘔吐、下痢などの消化器症状のほか衰弱、昏睡など生命に関わる深刻な状態になることがあります。

代謝異常が進行するとケトアシドーシスを併発し、より重篤な症状を引き起こします。この症状を放置すると命の危険もあります。


糖尿病の診断・検査は?


・持続的な症状(多飲多尿、体重減少など)

・持続的な高血糖(犬:180mg/dl  猫:300mg/dl以上)

・持続的な尿糖陽性

以上の条件を満たしている場合に糖尿病と診断します。

糖尿病と診断された場合、どうして糖尿病になってしまったのかという原因を探るために、レントゲン検査や超音波検査、ホルモン検査などで詳しく調べていきます。



糖尿病の治療は?

糖尿病の治療は、血糖値を身体に害の少ない一定の範囲内に安定させることを目標に行います。副腎疾患や卵巣疾患など糖尿病の原因となっている疾患がある場合や薬剤が原因になっている場合はその原因を取り除くことで糖尿病自体も解決する場合もありますが、多くの場合はインスリンなどによる持続的な血糖値のコントロールが必要です。


①食事療法


・食習慣の見直し

1日の食事の回数や時間、食事内容などを安定させ、また間食などをしないようするなど、インスリンによる血糖値のコントロールを良好に行えるよう生活パターンを整えます。

・体重管理と適度な運動

極端に痩せていたり運動不足だったりするとインスリンの効きが悪くなるので、適切な体重を維持できるように食事量を調整し、適度な運動ができるように環境を整えます。

・糖尿病用の療法食の活用

糖尿病食は食物繊維を多く含み食後の糖の吸収を緩やかにしてくれたり、低炭水化物かつ高タンパクに調整し血糖値が上がりにくくされているものなどがあります。

缶詰やウェットフードは糖尿病食ではないものでも低炭水化物/高タンパクになっているため血糖値の上昇を抑えつつ、水分補給を一緒に行うことができます。犬用の半生タイプのフードは高炭水化物なので、糖尿病治療には適しません。



②インスリン療法

治療可能な基礎疾患がある場合を除き、ほとんどの場合で膵臓はインスリンの合成・分泌能力を失っています。したがって、血糖値のコントロールのため、注射によりインスリンの補充を行うインスリン療法が必要です。主に1日1~2回、注射することで血糖値を下げていきます。

糖尿病治療のメインはこのインスリン療法です。

 

インスリンには様々な種類があり、それぞれ作用する時間の長さが異なります。また、同じお薬でも動物の種類や体の大きさによって、あるいは単純な個体差によっても作用時間が変化します。インスリン療法を開始する際にはこまめに血糖値を測定して、それぞれのどうぶつに合わせたインスリンの種類や量を調整していく必要があります。

インスリン療法を行う際に一番気を付けたいことは低血糖です。インスリンを過剰に投与してしまうと、血糖値が下がりすぎて意識障害やけいれん発作を引き起こし、命にかかわる場合があります。インスリンの投与は、適切な食事管理を行ったうえで決められた量をしっかりと守って行うことが大切です。

糖尿病は一部の場合を除き、完治させることが難しい病気で生涯にわたって治療が必要な病気です。糖尿病治療の目標は完治というよりも生活の質の改善(QOLの改善)であり、具体的には多飲多尿や体重減少を改善し、白内障やより重篤なケトアシドーシスなどの合併症を予防することです。

糖尿病は基礎疾患や併発疾患の程度により、経過は大きく異なりますが、早期発見と適切な治療を行えば、糖尿病自体は命を奪うような病気ではありません。

特に猫ちゃんは体型維持に努めることで糖尿病のリスクを減らすことができます。生活習慣を見直し、健康に過ごしていけるようにしてあげてください。日頃から愛犬、愛猫の健康状態を把握し、尿量や尿色、飲水量などに変化があれば、受診されることをおすすめいたします。



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