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無麻酔スケーリングの危険性

症例

歯科

無麻酔スケーリングの危険性

獣医師:岩上 慎哉


無麻酔で歯石が取れる!?





病院で行うスケーリング処置(歯石取り)は全身麻酔をかけて行います。ただどんな飼い主様も全身麻酔をかけて処置をするということに不安はあるかと思います。そんな中、近年インターネットを中心に『無麻酔での歯石取り』という言葉を見るようになりました。麻酔をかけずに行える、安心、安全で負担が少なくリーズナブルな処置だとして注目を集めています。

では無麻酔で行う歯石取りは本当に安心なのでしょうか?

それは完全なる間違いです!

無麻酔での歯石取りは治療としては意味がないだけではなく愛犬を危険にさらしてしまう可能性まであります。今回は無麻酔での歯石除去がどうしてダメなのかを解説します。


 

​01 表面的な歯石だけを除去しても意味がない

 そもそも無麻酔での歯石取りは意味がありません。無麻酔では目に見える表面的な歯石を超音波ハンドスケーラー等の器具を使って除去しますが、この歯石は実は歯周病の直接的な原因ではありません。 歯周病の直接的な原因は歯垢(プラーク)です。もちろん歯石は二次的にプラークを付きやすくしてしまうのですがこれを除去しただけでは改善しません。本来のスケーリングは歯の表側、裏側歯周ポケットの中に至るまで歯垢、歯石を除去し、最後に歯の表面を磨くポリッシングまで行うことで歯垢や歯石が再び付着しにくい口腔環境にします。 無麻酔ではここまで細やかな処置を行うことは難しく見た目上の効果しかないのです。無麻酔の歯石取りでは一見きれいになったように見えても歯周病の原因は取り除けず、歯周病は進行し続けます。

膝蓋骨脱臼とは、この膝のお皿が滑車溝の内側や外側に外れてしまう病気です。小型犬で比較的多い病気で、日本で人気のある犬種ではチワワ、プードル、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなどがかかりやすい病気です。大型犬でもラブラドールレトリバーなどでみられることがあります。膝蓋骨脱臼は触診やX線検査で診断され、症状の程度によって4段階の重症度に分類されます。



 

02 怪我をさせてしまう恐れがある

 歯石を取るために使用する超音波スケーラーの先端は鋭く尖っていて、大変鋭利な器具です。歯石はがっちり付着しているため器具でガリガリと削り落とすのですが、その際に器具が歯面を滑ったりワンちゃんが動いたりすると歯肉や舌、口腔内粘膜を傷つける可能性があります。 また鉗子を使って取る場合は歯が折れたり、重度歯周病の場合は、歯周病によって弱くなった顎の骨が折れる可能性もあります。



 

03 痛いし怖い

 麻酔をかけずに歯石を取る場合、処置中にワンちゃんが動くと危険なため、がっちり押さえつけられることもあるでしょう。処置中は口を開けたままの状態でキープしなくてはいけません。それはワンちゃんにとってとても怖いことで大きなストレスになります。 また歯肉炎があるところをスケーラーでいじられるのは痛みを伴います。麻酔をかければ感じなくて済むこれらの苦痛を無麻酔の歯石取りでは与えてしまうことになります


 

04 その後のデンタルホームケアの妨げになる

 予防歯科で重要なのはスケーリングで綺麗にした後、お家でのケアにより綺麗な状態を維持することです。 しかし、恐怖や痛みを感じながら行われた歯石取りはワンちゃんにトラウマを残し家で口を触らせてくれなくなります。 これではお家で十分なデンタルケアを行うことが出来ず、せっかく落としたはずの歯石がまたすぐに付いてしまうのです。デンタルケアが出来ない場合、歯垢は24時間、歯石は3〜5日で出来てしまうと言われています。


 

05 歯石の誤嚥(ごえん)


 歯面から取った歯石は細かく砕け呼吸と共に、または暴れた際に気管や肺に入る可能性があります。細菌の固まりである歯石は汚いもので、これを誤嚥すると誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。 誤嚥は避けなければなりません。麻酔中は気管チューブを挿入し、処置中にはガーゼなどを喉に詰めて誤嚥を防ぎながら歯石を取ることが出来るため誤嚥から気管や肺を守ることができます。

 皆さん、無麻酔での歯石取りがいかに危険で治療効果の乏しいものかお分かりいただけましたか?

もちろん全身麻酔も100%安全を保証するものではありません。年齢、基礎疾患などの状況によってもリスクは変わってきます。 しかし、ワンちゃんの状態をしっかり把握してスケーリングを安全に行えるようリスクを最小限にする努力をしております。獣医師としっかり相談した上で麻酔下でスケーリングすることをお勧めいたします。

気になる事がありましたらスタッフまでお声かけください。



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