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犬の乳腺腫瘍

症例

腫瘍科

乳腺腫瘍とは?

犬には通常左右5対の乳腺があります。

乳腺腫瘍とは、その乳腺に発生する腫瘍のことで乳腺の近くに発生する皮下または皮膚腫瘤として見つかります。

特に乳腺組織の多い、第4〜5乳腺(後肢に近い方)に多く発生します。


腫瘍には良性と悪性があり、悪性のものは乳癌とも言われます。犬で発生する乳腺腫瘍は半数が良性腫瘍とされ、約90%が悪性である猫とは大きく異なります。発生のほとんどが雌ではありますが、ごく稀に雄でもみられます。年齢と共に発生は増加し、良性は7〜9歳、悪性は9〜11歳頃で多く発生する傾向にあります。

好発犬種はM.ダックスフント、ヨークシャーテリア、マルチーズ、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバーなどです。大型犬の方が悪性腫瘍の発生率が高く、腫瘍が原因で亡くなる子の割合も高くなります。


乳腺腫瘍の症状とは?

乳腺組織に「しこり」ができるのが特徴です。胸や脇の下、下腹部、内股までの乳腺に複数ヶ所できる場合もあり、悪性腫瘍の場合は、腫瘍の増殖とともに皮膚が破け出血や壊死を起こしたり、リンパ節や肺や肝臓などの他の組織に転移する場合があります。

よく避妊手術で乳腺腫瘍の発生率を下げることができると聞いたことがあると思います。

実際には、どれくらいの効果があるのでしょうか?


卵巣子宮摘出のタイミングでの乳腺腫瘍発生率

初回発情前:0.5%

1回目の発情後:8%

2〜3回目発情後:26%

2.5歳以降に実施した場合:差は認められない


初回発情が来る前の大体6ヶ月頃に手術を行えば、発生率を0.5%まで低下させることができますが、発情が2〜3回来てしまった後に手術をした場合では4頭に1頭は乳腺腫瘍になってしまいます。

適切なタイミングで避妊手術を行うことが、乳腺腫瘍の予防のためには非常に重要というのがわかりますね。



乳腺腫瘍の診断・検査は?

診断の第一段階は触診と問診です。

乳腺近傍にしこりがあるかどうか、そのしこりはどれくらいの大きさで、どこの乳腺にいくつあるのかをみます。6割以上で多発すると言われていますので、しこりが1個でもある子では全ての乳腺をしっかり触ります。また、いつからあるのか、どれくらいのスピードで大きくなってきたか、増えてきたかなどの情報で悪性である可能性がどの程度疑われるのかという判断もしています。

犬の皮膚、皮下には乳腺腫瘍の他にも様々な腫瘍が発生します。たまたま乳腺近傍にできた他の腫瘍という可能性もあります。よって、乳腺部にできたしこりに針を刺して細胞をとって観察するという針生検を行う場合もあります。これにより乳腺腫瘍かどうかの診断の助けとすることができます。この針生検は炎症や感染の有無なども分かり、その後の治療の選択にも使える検査ですがこれだけで、良性、悪性を鑑別することはできません。



また、乳腺腫瘍はその時の腫瘍の程度により、ステージングという病態の評価がなされます。その基準は大きさ、リンパ節への転移があるのかどうか、肺などへの遠隔転移があるかどうかです。ステージングにより治療や予後のお話が変わりますのでレントゲンや超音波検査などでもしっかり確認していきます。




乳腺腫瘍の治療は?

多くの場合では外科的切除が治療の第一選択となります。

手術で腫瘍を切除すると一口に言っても、切除の方式にはいくつか選択肢があります。

  1. 腫瘍のみの切除

  2. 腫瘍のある乳腺のみの切除

  3. 周辺乳腺も同時に切除

  4. 片側乳腺全摘出

  5. 両側乳腺全摘出

手術と言っても、これだけの方式があるのです。

ではどの術式を選択した方がいいのでしょうか?

術式の選択は、年齢や併発疾患などによる麻酔のリスクがどれだけあるのか、腫瘍の存在している位置や個数、進行状況や悪性がどれほど疑われるのか様々な状態や条件を踏まえた上で選択していきます。

 

手術をした後の残存した乳腺に、その後新たな乳腺腫瘍ができる可能性は58%と言われており、乳腺組織が残っているとどうしても再度腫瘍を患う可能性については考えなくてはなりません。しかし、大きく切除すれば麻酔時間や手術による侵襲も大きくなるためそれぞれの術式のメリット、デメリットについてはしっかりとご理解いただいた上で選択していかなければなりませんね。

もし、未避妊雌の子であれば、一緒に避妊手術を行うことでその後の発生リスクを下げられる可能性があるので、検討しましょう。


外科手術以外の選択肢は、内科治療としてまず化学療法があります。

いわゆる抗がん剤を使う治療ですが、乳腺腫瘍に対して効くという抗がん剤の報告はいくつかあるものの、報告によって効果にばらつきがあり、確立された有効な化学療法というものはないのが現状です。よって、外科手術後や手術ができない状況での化学療法を行うことはありますが、化学療法だけで治すというのは難しいです。

次に緩和療法です。

炎症を伴った乳癌だったり、皮膚へ腫瘍が浸潤してしまっている場合、腫瘤が自潰(表面が壊死して崩れる)しているような場合では感染や痛みを伴うこともあるため、それを取り除いてあげる治療が必要になります。感染に対しての抗生剤や、痛みに対して消炎鎮痛剤や麻薬などの痛み止めを用いるなど症状の緩和をはかるための治療です。これも根本的な解決には至りません。

 

腫瘍は様々な要因によって発生する病気なので、発生をゼロにすることはできませんがその予防のためには、いかに避妊手術が重要かお分かりいただけたかと思います。避妊手術のメリットは乳腺腫瘍の発生率を下げるだけではありません。

子宮疾患や卵巣疾患、偽妊娠も予防することができます。

 

避妊手術を悩まれている方がいらっしゃいましたら獣医師までご相談ください。




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