
眼球摘出
症例
眼科
眼球摘出手術は、さまざまな眼疾患や外傷に対する最終的な治療法として行われます。
本記事では、適応となる疾患と病態、および術後のリスクについて解説します。
【眼球摘出の適応疾患と病態】
① 重度の眼球損傷・外傷
交通事故や咬傷による眼球破裂
鋭利なものによる穿孔創(貫通性眼外傷)
深刻な眼内出血や硝子体脱出
② 治療困難な眼疾患
緑内障:内科治療や外科的治療(レーザー治療、シリコン義眼など)が奏功しない場合、眼圧の上昇による激しい疼痛を避けるため摘出が推奨される。
眼内炎(ブドウ膜炎、眼内感染):重度の細菌感染や真菌感染による慢性炎症が持続し、眼球保存が困難な場合。
前房出血・水晶体脱臼:重篤な症例では眼球の形態と機能が維持できなくなることがある。
③ 腫瘍性疾患
眼内腫瘍(メラノーマ、リンパ腫など)
猫の眼内メラノーマ は悪性度が高く、早期の摘出が転移予防に有効とされる。
リンパ腫などの全身疾患に伴う眼症状が重度の場合、疼痛管理のため摘出を選択することもある。
眼瞼腫瘍(扁平上皮癌など)
眼球の温存が難しい場合や、腫瘍が眼内に浸潤している場合に適応。
④ その他の適応
先天異常(小眼球症、眼球癒着など)
失明し、慢性的な痛みを伴う眼(進行性萎縮や線維化が進行している眼)
【術後のリスクと管理】
① 出血・血腫形成
手術直後の合併症として出血が起こることがある。
術後の圧迫包帯や適切な止血処置が重要。
② 感染症(術部感染、縫合部感染)
術後の抗生剤投与と清潔な管理が必須。
感染が進行すると眼窩膿瘍を形成することも。
③ 眼窩陥没(エンクレーファルト症候群)
眼球を摘出すると、時間とともに眼窩の軟部組織が萎縮し、陥没が目立つことがある。
義眼や脂肪移植を併用することで防げる場合もある。
④ 眼窩痛(ファントムペイン)
まれに摘出後も痛みを感じることがある。
消炎鎮痛薬(NSAIDs)やオピオイドの適切な使用、神経障害性疼痛に対する管理が必要。
⑤ 縫合部の離開・肉芽形成
糸の反応性による肉芽形成や、過剰な掻破行動による縫合部離開が発生することがある。
エリザベスカラーの装着や縫合糸の選択が重要。
実際の症例①
外傷性の眼球突出


実際の症例②
結膜メラノーマ(悪性黒色種)



まとめ
眼球摘出手術は、疼痛の軽減や生命予後の改善を目的に行われる手術です。緑内障や眼内腫瘍、重度の外傷などが主な適応となり、術後のリスクとして出血、感染、眼窩の変化などが挙げられます。適切な術後管理を行うことで、猫の生活の質を向上させることが可能です。