top of page
02-01-group_Mono_edited.png

猫の乳腺腫瘍

症例

腫瘍科

猫の乳腺腫瘍は高リスクの疾患です。

80〜90%以上が悪性腫瘍(腺癌)であり、犬と比較しても高い悪性度と転移率を示すことで知られています。

特に、未避妊のメス猫や高齢猫(6歳以降に多い)において発生率が高く、発見時にはすでに転移が進行していることも少なくありません。

転移が見られない段階での発見であれば、治療の第一選択は乳腺の全摘出です。



なぜ全摘出が基本治療とされるのか?

猫の乳腺腫瘍は多中心性かつ浸潤性であることが多く、単純な局所切除では不十分なことが多いです。

そのため、腫瘍のある側のリンパ節を含む片側全摘出(片側乳腺摘出術)または両側全摘出が推奨されるのが一般的です。

さらに、腫瘍径が2cm未満の早期発見であっても、全摘出とそれ以外の術式では生存期間に大きな差があることが複数の文献で報告されています。



乳腺全摘出が適応となるケース

以下のようなケースでは、部分切除ではなく片側または両側乳腺全摘出が推奨されます:

  • 腫瘍が2cm以上の大きさである(予後に直結)

  • 複数の乳腺領域に腫瘍が存在する

  • 急速に増大する腫瘍

  • 皮膚浸潤や潰瘍形成を伴う症例

  • 片側の乳腺に腫瘍が複数ある場合

  • 以前に乳腺腫瘍の切除歴があり、再発している場合

また、可能であれば卵巣・子宮摘出(OVH)との同時手術も検討されます。ホルモン依存性の可能性は犬ほど強くはないものの、早期避妊が乳腺腫瘍の発症予防に有効であることは確立されています。



摘出された乳腺
摘出された乳腺


乳腺全摘出に伴うリスクと注意点

主な手術リスク

  • 皮膚の緊張・血流障害による創部壊死

  • 出血・血腫形成

  • 感染リスクの増加(創部面積が広いため)

  • 疼痛コントロールの難しさ(広範囲手術)

  • 術後のリンパ浮腫や腋窩浮腫


術後の管理

  • 積極的な疼痛管理(マルチモーダル)が必要

  • NSAIDsやブプレノルフィン、ガバペンチンなどの併用を検討

  • ドレーン管理(排液や局所麻酔)が必要となる場合もあります

  • 傷が大きいため、術後服やカラーによる保護が必須

  • 通常1−2週間前後の経過観察と抗生剤投与


予後と再発リスク

腫瘍径が2cm以下の早期発見・完全切除例では平均生存期間2〜3年と比較的良好ですが、2cmを超える腫瘍、またはリンパ節転移例では予後不良とされます。

全摘出によっても再発・転移のリスクはゼロにはなりませんが、外科的完全切除が最も予後改善に寄与する点は変わりません。



まとめ

猫の乳腺腫瘍は「とりあえずしこりを取ればよい」というレベルの疾患ではなく、全身性の腫瘍性疾患としての対応が求められます。

乳腺全摘出術は侵襲性が高い反面、唯一の根治的手段であり、予後に大きな影響を与える治療法です。

術式の選択は、腫瘍のステージ・猫の全身状態・飼い主の希望を丁寧に擦り合わせた上で、慎重に決定する必要がありますのでご相談ください。

bottom of page