
唾液線嚢胞摘出術
症例
軟部外科
■ 唾液腺嚢胞とは
犬の唾液は、耳下腺、頬骨腺、下顎腺、舌下腺などの大唾液腺と、軟口蓋、唇、舌、頬に散在している小唾液腺より分泌されています。唾液腺嚢胞は大唾液腺導管の閉塞や裂開により、唾液が皮下組織に漏出し貯留して発症します。舌下腺によるものが最も多く、ガマ腫と呼ばれることもあります。

■ 唾液腺嚢胞の原因は?
主に以下のような原因で唾液の通り道(導管)が損傷したり詰まったりすることで起こります。
外傷(打撲や噛まれた傷)
唾液腺や導管の炎症
先天的な異常
はっきりとした原因がわからない場合もあります
■ どんな症状が見られる?
首やあごの下にやわらかく、痛みのない腫れ
飲み込みにくそうにする
食欲が落ちる(まれ)
舌の下にふくらみができることも
※嚢胞が破れて唾液が流れ出すと、一時的にしぼむこともあります。
■ 診断方法は?
針を刺して中の液体を採取(穿刺)
エコー検査やCT検査で構造を確認
病理検査で唾液性であることを確認する場合も
唾液がたまっていると、穿刺で「粘り気のある透明な液体」が採れるのが特徴です。
■ 治療法は?
根本的な治療は外科手術になります。
原因となっている唾液腺の摘出(多くは下顎および舌下腺)
嚢胞の排液だけでは再発することが多いです
術後は多くのケースで再発なく過ごせます。
犬猫の唾液腺嚢胞(salivary mucocele)に対する唾液腺摘出術(通常は下顎腺・舌下腺の複合体切除)の適応と合併症について、以下にまとめます。
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【適応】
唾液腺摘出術は、以下のようなケースで根治的治療として適応されます。
反復性または持続性の唾液腺嚢胞
穿刺排液だけでは再発を繰り返す場合
嚢胞が縮小しない場合
嚢胞が機能や生活に支障をきたす場合
嚥下困難(食べづらそう、飲み込みにくい)
発声異常(猫では稀だが、犬では鳴き方が変わることも)
呼吸困難(大型の頚部嚢胞や咽頭粘液瘤)
嚢胞内容の感染や炎症を伴う場合
発熱、局所の発赤や痛み、膿性液が採取される場合
外傷や唾液腺破裂による嚢胞形成


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【主な合併症】
唾液腺摘出術は一般的に安全性の高い手術ですが、以下のような合併症に注意が必要です。
神経損傷
顔面神経下顎枝の損傷:下唇の運動麻痺(特に犬)
舌下神経の損傷:舌の運動異常(まれ)
術後出血・血腫形成
頚部は血管が豊富なため、不適切な止血で血腫が生じることがある
再発
舌下腺の一部が残存すると、嚢胞が再発する可能性
嚢胞自体は摘出しなくても治癒することが多いが、導管摘出が不完全だと再発しやすい
感染
手術部位に細菌感染が起こる可能性(抗生剤使用で予防)
唾液漏出
手術部周囲に唾液が漏出して新たな嚢胞形成や慢性炎症を起こすことがある
まとめ

唾液腺嚢胞は一見無害そうに見える腫れですが、再発したり感染を起こす可能性もあります。もし気になるふくらみが見られたら、早めに動物病院での診察を受けることをおすすめします。