脾臓腫瘍
症例
腫瘍科
脾臓はリンパ系器官の中で最も大きな臓器で、主な作用は血液のろ過や貯蔵、造血、免疫機能等さまざまな役割を果たしています。
脾臓腫瘍は犬では比較的発生頻度の高い腫瘍の一つです。脾臓の腫瘍は大きくなっても症状が認められず、超音波検査等で偶発的に発見されることもあります。脾臓にできものができると良性悪性にかかわらず、出血を起こす可能性があります。腹腔内出血を起こした場合、急激に血圧が低下しショック状態に陥り、命に関わることもあります。当院で脾臓の腫瘤に対してどのような検査、診断、治療しているかをご紹介します。
検査
当院では血液検査やX線検査、超音波検査を合わせて行っています。
血液検査
脾臓腫瘤が腹腔内出血や腫瘍内出血を繰り返している場合は貧血が見られる場合が多いため血液検査で確認しています。また脾臓の腫大が認められる場合はその原因となる病気がないか血液検査で確認しています。
X線検査
脾臓の腫大や腫瘤性病変の確認、腹水の有無や他臓器への転移等を確認しています。一般的には脾臓がびまん性(一面に広がるように)腫大しているときは、脾臓のうっ血やリンパ腫、肥満細胞腫等が原因で起きることが多いと言われています。また限局して脾臓が腫大している場合は結節性過形成や血種、血管肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫などが考えられます。ただしX線検査での見た目や腫瘤の大きさのみでこれらの疾患を鑑別することは困難です。
超音波検査
正常な脾臓はきめ細かい均一なエコー源性を有しています。エコーの見え方の違いにより病気がある程度絞り込めますがその見え方の違いだけでは確定診断はできません。診断には通常FNA(穿刺吸引細胞診)が必要となります。脾臓のFNAは超音波ガイド下で血行の少ない部位を特定し、経皮的に行っています。リンパ腫や肥満細胞腫を疑っている場合の診断にはFNA検査は有効ですが、血管肉腫が疑われる場合や止血異常がある場合など腹腔内出血の可能性がある場合は推奨されません。麻酔をかけずにおこなえるFNAは有用な検査ではありますが、検査に有益な細胞がとれないこともあるため確定診断をするのが難しい場合も多くあります。
確定診断
先ほども述べたように脾臓の腫瘤がある場合、細胞診だけでは確定診断がつけられないこともあるため、悪性が強く疑われる場合は手術による脾臓の全摘出を行います。摘出後の脾臓を外部の検査機関に送り病理検査を行うことで確定診断をつけることができます。
脾臓摘出後の身体への影響
脾臓の主な働きは、血球破壊機能、造血機能、免疫機能、血液貯蔵機能です。
脾臓の機能はほかの臓器が代償できるものが多いため、脾臓の全摘出を行っても大きな影響はないと考えられています。しかし脾臓を摘出した子では出血性のショックや激しい運動に対して耐性が低いとの報告もあるため全く影響がないとは言えません。また骨髄低形成の動物では脾臓が造血の主要な器官であるため脾臓摘出はできません。
実際の手術症例
9歳の32kgのMIX犬
急激な体重減少、腹部腫脹で来院。
手術時には、腹部内での脾臓が一部裂開している箇所も確認され、いつ大量出血を起こしていても不思議ではない状 況でした。今回の手術では、脾臓の腫大が著しいことで他臓器への圧迫の軽減、慢性貧血の改善を期待し行いました。輸血を行いながら最後まで終えることができました⬇︎
摘出した腫瘍だけで3.5kg程の重さであり、お馴染みの油性ペン(14cm)と比較してもどれだけの大きさか分かるかと思います。
治療法
脾臓腫瘍に対する一般的な治療法は脾臓の全摘出です。
ただしすべての脾臓の腫瘤に対して手術を勧めるわけではなく、場合によっては経過観察をして変化がないかを見ていく場合もあるので担当医との相談になります。確定診断がついたあと、治療は相談していきます。
例えば血種や結節性過形成などの良性の病変であれば通常摘出すれば長期的予後も非常に良好であるケースが多いです。しかし悪性である場合は腫瘍の種類によってその治療が異なります。
例えば脾臓の原発性血管肉腫は摘出しても予後が悪いことが多く、ステージⅠの転移がない症例でも脾臓摘出術のみで治療したときの平均生存中央値 は86日、手術後の二か月生存率は31%ともいわれています。転移がある場合は可能な限り化学療法を行いますが、化学療法が著しくQOLを改善しないというような報告もあるため、術後の動物の状態等を考慮しつつ化学療法を行うか否かを決定しています。高齢の動物も多いため、当院では治療についてしっかりと事前に相談させてもらい治療をしていきますのでご安心ください。
最後に
脾臓の腫瘤は超音波検査で偶発的に発見されることが多い病気です。症状が出た時にはすでに腹腔内出血を起こしているため命に関わる状態です。高齢になると増えてくるため、一度健康診断を受けることをお勧めします。