
肛門嚢摘出
症例
軟部外科
肛門嚢(こうもんのう)は犬猫における重要な臭腺器官の一つですが、慢性炎症や感染、腫瘍などが繰り返される場合、肛門嚢摘出手術(anal sacculectomy)が適応となります。この術式について、適応症と注意すべき合併症を中心に解説します。


■ 手術の適応
肛門嚢摘出は、内科的管理でコントロール不能な慢性肛門嚢炎や再発性の肛門嚢破裂、腫瘍性変化などに対して行われます。
主な適応は以下の通り:
再発性肛門嚢炎(2回以上/年で抗生剤・洗浄に反応しない)
肛門嚢破裂(肛門嚢瘻)の既往がある
肛門嚢腺癌
瘻孔形成を伴う重度の線維化・肉芽形成
慢性の不快臭・掻痒感を伴う生活の質の低下
内科的アプローチ(洗浄・抗菌療法・局所投与)を行っても再発する症例では、手術がQOL改善につながる場合が多く、特に繊維化・瘢痕化が進行する前の早期介入が望まれます。



■ 合併症と対策
① 肛門失禁
最も重大な合併症の一つです。特に外肛門括約筋の深部損傷でリスクが上がります。
術後の一過性失禁は通常1〜2週間で改善しますが、永久的な失禁リスクは0.5〜2%と報告されており、飼い主への説明が重要です
② 瘻孔・排膿の持続
上皮残存や感染の持続によって術後もドレナージが続くケースがあります。
術中の完全摘出が予防のポイント
必要に応じて再手術や抗菌薬投与を考慮
③ 縫合不全・皮膚壊死
皮膚張力が強い場合や不適切な縫合法で生じやすい。特に老犬や糖尿病・ステロイド治療歴のある個体では要注意。
■ 術後管理と再発予防
エリザベスカラーの装着は必須
術後の排便観察(便秘予防も重要)
抗菌薬の投与が必要、腫瘍性や開放式手術では培養に基づいた治療を行うべき
数ヶ月にわたる創部の観察と飼い主指導が重要(再発の早期発見)
■ まとめ
肛門嚢摘出術は、適応を見極め、術前・術後の管理を徹底することで、長期的な予後と動物のQOL向上に貢献することができます。