
心原性肺水腫
症例
循環器科
心原性肺水腫(しんげんせいはいすいしゅ)
⚪︎肺水腫とは?
肺水腫とは、血液がうっ滞するなどの影響で循環がうまくいかなくなることで、肺の血管から水分が漏れ出してくる(肺血管の透過性が上昇する)状態になってしまいます。そう すると、肺での酸素交換がうまくいかなくなり呼吸が苦しくなってしまいます。これを肺水腫と言います。
イメージで例えると、新品のスポンジ(肺)に水が染み込んでスポンジに空気が含みづらくなるような状況です。
肺水腫の原因には、
心臓が原因となる心原性肺水腫
それ以外の原因で起こる非心原性肺水腫
の大きく2つに分類されます。
今回は、犬の心原性肺水腫に焦点を当ててお話ししていこうと思います。
⚪︎心原性肺水腫の原因とは?
心原性肺水腫の原意のとなる病気は犬と猫で大きく変わります。
犬では、僧帽弁閉鎖不全症が原因で起こることが最も多く、そのほかの原因として拡張型心筋症や先天性心疾患、不整脈などがあります。
⚪︎肺水腫になったときに見られる症状は?
肺水腫になった際に見られる症状として、
チアノーゼ(舌の色が紫っぽくなる)
咳
呼吸粗造 →呼吸が速くなったり、努力性の呼吸が見られる
元気、食欲の低下
運動不耐 →伏せてしまって動かないなど
失神、虚脱
嘔吐
⚪︎診断方法は?
診断方法は主に超音波検査や心臓超音波検査での肺や心臓の評価がとても重要となっています。
肺水腫と類似した病気として、肺炎などの可能性もあるのでそれらのような他の病気と区別をするために血液検査での評価も重要となっています。
また、肺水腫の原因によっては心電図検査や血圧測定などの追加検査も実施する場合があります。
画像はレントゲンの写真ですが、本来、心臓の周りの組織は肺があり、黒く抜けて見えるのが普通です。しかし、肺水腫を起こした影響で肺の一部分が白くなり、心臓の輪郭がわかりづらくなってしまっています。

⚪︎治療方法は?
状況によっては入院での治療が必要となる場合もあります。治療の目標は肺水腫からの脱却を目指す急性期の治療と、肺水腫を起こす原因となる病気の管理を目指す慢性期の治療が必要となります。
①酸素化療法
肺水腫の状態になると、通常の酸素濃度の環境であると酸素を体内に取り込むことが難しいです。そのため、通常よりも濃度の濃い酸素室に入れたり、濃縮酸素を直接嗅がせたりすることで一度に多くの酸素を体に取り込めるよう対応をします。
②利尿剤
利尿剤を用いることで、体の中の水分を減らし、心臓や肺血管の血液のうっ滞の改善を促します。腎臓に負荷はかかってしまいますが、急性期には必ず必要となってくる対応です。
③強心剤
強心剤を用いることで、心臓の動きを改善させうっ滞の解除を促します。
④抗不整脈薬
不整脈によって、心臓の動きが低下している場合に 用います。
これらのような治療を組み合わせて肺水腫の管理や治療を実施していきます。
実際に治療を行った先ほどのレントゲンの子は治療を実施しこのようになりました。

肺水腫が解除され心臓の輪郭がはっきりと見えるようになり、呼吸状態も改善し退院することができました。
⚪︎肺水腫を脱却してからの対応は?
肺水腫から脱却して慢性期に入った場合でもそこで治療が完全に終了するわけではありません。
画像検査や血液検査などによる、定期的な検診による肺水腫の再発がないかのチェックや、原因となる病気の進行の程度の確認が必要です。
患者様によって進行の程度が変わってくるので期間 はまちまちですが、平均3ヶ月程度の頻度での検診をお勧めしています。
また、心原性肺水腫になった僧帽弁閉鎖不全症の犬のうち、内科治療による予後は平均およそ1年前後と言われています。
外科手術を実施する場合、この肺水腫になってから実施するケースが多いです。
このような状況にならないようにするためにも、定期的な検診を実施し病気リスクの早期発見や早期治療を実施していきましょう。
当院では心臓の検査を含めた健康診断や、循環器内科の治療相談、外科治療を目的とした二次病院への紹介も受け付けております。お気軽にご相談ください。