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猫の肥大型心筋症

症例

循環器科

猫の肥大型心筋症

肥大型心筋症とは?

肥大型心筋症(ひだいがたしんきんしょう)とは、心臓の筋肉(特に左心室)が分厚くなってしまう病気です。


猫の肥大型心筋症
猫の肥大型心筋症

人間での肥大型心筋症の発生は0.2%程度と言われていますが、猫での肥大型心筋症の発生率はおよそ15%と、動物種的に非常になりやすい病気です。

心筋が肥厚することで心臓の拡張機能が低下し、循環能の低下が起こりそれに付随した症状が出る子がいますが、中には症状が出ないまま進行する子もいます。

犬の心臓病と大きく異なる点として、心臓に雑音がないケースも大変多く、触診や聴診だけでの発見や診断が非常に難しい病気となっています。心筋症と診断された猫のうち心雑音がなかったのが4頭に1頭くらいだったという報告もあります。

そのため,症状が出て病気が見つかった頃にはかなりの末期だったといったケースも珍しくありません。



原因

心筋症の原因には

  • 特発性(原因がはっきりとしないもの。1番多い)

  • 遺伝性(メインクーンやラグドールなどが多い)

  • 続発性(甲状腺機能亢進症や高血圧などが原因で起こるもの)

のいずれかが主な原因となっています。



なりやすい猫種は?

肥大型心筋症の好発種としては

  • メインクーン

  • スコティシュ・フォールド

  • アメリカン・ショートヘア

  • ラグドール

など、純血種に比較的多い疾患となっています。




なりやすい年齢は?

過去の報告では6歳ー8歳くらいの中年齢以降の猫での発症が多いとされていましたが、猫種によっては平均2,3歳でも発症する種類もあり,年齢とともに発症する病気でないことがわかってきています。近年の報告では生後4ヶ月の猫で診断されたというケースもあります。

当院でも、若齢ながら肥大型心筋症と診断された猫ちゃんは何頭かいます。



症状は?

心筋症の際にでる可能性のある症状には、

  • 呼吸困難 →肩で息をするような呼吸や、お腹で息をするような深い呼吸、口を開いて呼吸をするなど

  • 運動不耐性 →疲れやすい、動きたがらないなど

  • 急性後肢麻痺 →突然の後肢や腰の痛み 

  • 食欲不振

  • 突然死 →血栓の影響や、不整脈など

などがあります。

犬では心不全の症状でしばしば咳が出ますが、猫ではあまり多くありません。

また、猫の心筋症は症状がないこと(無兆候性肥大型心筋症:むちょうこうせいひだいがたしんきんしょう)ということも度々あり、病気の発見が遅くなってしまうことも少なくありません。



診断は?

 診断には心臓超音波検査や胸部レントゲン検査、心電図検査、血液検査、血圧測定などが診断には必要となっています。その子の状況によって必要な検査は変わってきますが、中でも心臓超音波検査は心筋の形態や、心筋症による血流の変化などの評価においてとても重要となっています。

肥大型心筋症の重症度の評価として、アメリカ獣医内科学会による分類(ACVIM分類)を用いて評価するのが一般的です。


ステージA:まだ発症していないが、肥大型心筋症になるリスク因子がある。

ステージB1:心臓の構造に異常はあるが、左心房の拡大がない。

ステージB2:心臓の構造に異常があり、左心房の拡大がない。

ステージC:心不全兆候がある(肺水腫など)、あるいは過去になったことがある。

ステージD:ステージCの中でも標準治療を行っても治療効果が乏しい、あるいは再発を繰り返す。

と分類されます。



治療法は?

残念ながら、肥大型心筋症は多くの場合治ることはありません。肥大型心筋症の治療方針は多くの場合、対症療法が中心となりなす。

その子によって心筋症の進行の速さは異なるため、進行の経過を定期的に見ていきながら、必要に応じて食事療法や運動制限、内服薬の投与の開始などを検討する必要があります。


①食事療法

最近の報告で、食事療法を実施することで心筋症の進行を遅延させることができるのでないかという療法食が出ました。まだ報告として出たばかりのもので情報は少ないですが、選択肢の一つと考えて良いのでないかと思います。

②内科療法

  • β遮断薬

    心拍数を下げることで、心筋が厚くなり狭くなってしまった左心室を広げます。それによって、1回の心拍で送れる血液量を多くすることができ循環の改善を狙います。

    また猫での報告はありませんが、人の肥大型心筋症においてはβ遮断薬を用いることで心筋を休ませ、心臓の筋肉の酸素消費量を抑えることで、予後が延長されたという報告もあるようです。

  • 抗血栓薬

    猫の肥大型心筋症では、進行してくると左心房内に血液がうっ滞し血栓ができやすくなります。

    こうしてできた血栓が何かの拍子に血流に乗ることで身体のどこかでつまることもあります。(動脈血栓塞栓症)抗血栓治療を実施することで、新たな血栓形成のリスクを減らすことができます。

  • 利尿剤

    肺水腫のリスクのある、あるいはなっている状況で使用を検討します。

    心臓への負荷を減らすことで、肺水腫の発症や再発のリスクを軽減させます。

  • 抗不整脈薬

    不整脈が発生している場合に使用を検討します。心臓のリズムを正常に近い状態に調節させます。


予後は?

その子の疾患の重症度により変わってきますが、ステージCになると予後の平均は1年程度とされています。

また、疾患の進行に応じて定期検診による評価も重要となっています。

このような状況を未然に防ぐためにも、定期的な検診を実施し病気リスクの早期発見や早期治療を実施していきましょう。

当院では心臓の検査を含めた健康診断や、循環器内科の治療相談、必要に応じて二次病院への紹介も受け付けております。お気軽にご相談ください。

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