
肺葉切除 開胸術
症例
呼吸器科
1. 肺葉切除とは?
「肺葉切除(はいようせつじょ)」とは、病気がある肺のブロックを切り取る手術です。
実は、犬や猫の肺は左右で大きな一つの風船のようになっているわけではありません。「肺葉(はいよう)」と呼ばれるいくつかのブロック(犬や猫は左右合わせて主に6〜7個)に細かく分かれています。
病変があるブロックだけをピンポイントで取り 除くため、他の正常な肺へのダメージを最小限に抑えることができます。

2. 肺は再生しないけれど…「残った肺がカバーする力」
「肺を切り取ったら、呼吸が苦しくなるのでは?」と心配になりますよね。
新しい肺が生えてくる(再生する)ことはありませんが、残った健康な肺が少しずつ膨らみ、切り取った分のスペースを埋めて働きをカバーする能力(代償性肥大)を備えています。
肺のいくつかのブロックを切り取っても、残った肺がしっかりと機能するため、術後のリハビリを経て、以前と変わらず元気に走り回れるようになる子がほとんどです。


3. 手術の適応:どんなときに必要なの?
主に以下のような病気や状態のときに、肺葉切除が選択されます。
原発性肺腫瘍(肺がんなど) 肺自体から発生した腫瘍です。他の臓器に転移していない段階であれば、肺葉切除によって腫瘍を完全に取り切ることで、根治や長期の生存が期待できます。
肺葉捻転(はいようねんてん) 肺のブロックの一つが、胸の中でぐるりとねじれてしまう緊急疾患です。大型犬やパグなどの犬種で突発的に起こることがあり、命に関わるため、迅速にねじれた肺を切除する必要があります。
重度の肺炎・肺膿瘍(はいのうよう) お薬が効かないほど重篤な感染が一部の肺に広がり、膿(うみ)が溜まってしまった場合、感染源を完全に取り除くために切除します。
難治性の気胸(肺胞の破裂など) 肺にできた「ブラ(空気の袋)」が破れて胸の中に空気が漏れ続け、呼吸ができなくなる 状態です。内科治療で治らない場合、破れている肺のブロックを切除します。

4. 合併症:どのようなリスクがあるの?
呼吸に関わる手術であるため、術中・術後は慎重な管理が必要になります。当院で実施している安全対策と合わせてご紹介します。
術中・術後の呼吸状態の変動(低酸素血症など)
手術中や手術直後は、一時的に酸素を取り込む力が低下することがあります。
当院の対策:手術中は「人工呼吸器」を用いて、1回ごとの呼吸を完全にコントロールします。また、術後もしばらくは「ICU(高濃度酸素ケージ)」に入り、楽に呼吸ができる環境で過ごしてもらいます。
術後の気胸や胸水(空気や液体の貯留)
肺を切った部位からわずかに空気が漏れたり、手術の刺激で胸の中に液体が溜まったりすることがあります。
当院の対策:手術の最後に「胸腔ドレーン」と呼ばれる細い管を胸に設置します。これにより、術後に胸に溜まる空気や液体をすぐに外へ抜くことができ、呼吸が苦しくなるのを防ぎます。状態が安定したらドレーンは後に抜去します。
術後の痛み
胸を開ける手術(開胸手術)は、どうしても痛みを伴いやすい手術です。痛みが強いと、呼吸が浅くなってしまい回復が遅れます。
当院の対策:複数の鎮痛薬を組み合わせる「マルチモーダル鎮痛」を行い、痛みを徹底的にコントロールします。痛みを最小限に抑えることで、術後早期の回復を促します。当院では麻薬の取り扱いもあり、より強固な鎮痛が可能です。

5. まとめ
「肺の手術」と聞くと、非常に重々しく、恐ろしいものに感じられると思います。
しかし、麻酔管理の技術、人工呼吸器などの高度な医療機器、そして痛みを抑える技術の進歩により、現代の獣医医療における肺葉切除は、「苦しい呼吸から解放され、場合によっては腫瘍の根治が期待できる、非常に前向きで治療効果の高い手術」となっています。
大切なご家族であるワンちゃん・ネコちゃんが、また穏やかに、気持ちよく深呼吸ができる日々を取り戻せるよう、私たちは全力でサポートいたします。


