
前立腺肥大
症例
泌尿器科・生殖器科
前立腺肥大とは?
前立腺肥大とは、前立腺という生殖器官が年齢とともに大きくなる病態を指します。
前立腺は膀胱のすぐ下に位置し、尿道を取り囲むような形をしている器官です。精液の構成成分の一部を産生し、繁殖に関わる大切な役割を担っています。
通常、中高齢(5~6歳以上)の未去勢のオス犬に多く見られますが、猫では比較的まれです。加齢に伴い、ホルモン(特にテストステロンとその代謝物であるジヒドロテストステロン)の影響で前立腺組織が過形成(=細胞が増殖)し、肥大化していきます。
・正式には「良性前立腺過形成(BPH: Benign Prostatic Hyperplasia)」と呼びます。
前立腺肥大による症状とは?
前立腺が肥大すると、隣接する臓器(尿道・直腸)を圧迫し、さまざまな症状が現れます。

主な症状
排尿障害:おしっこが出にくい、排尿姿勢を取ってもなかなか出ない
排便障害:便が細くなる、排便時にいきむ、便秘
血尿・血精液:尿や精液に血が混じることがある
腹部違和感や痛み:触られるのを嫌がる、元気・食欲の低下
後肢の硬直や歩き方の異常:前立腺の圧迫による神経症状
注意!
症状が軽い初期段階では、外見上大きな変化が見られないことも多いため、見逃しやすい病気です。
診断方法
動物病院では、以下のような方法で診断を進めます。
直腸検査:肛門から直腸に指を挿入し、前立腺の大きさ・硬さ・表面の状態を直接触診します。
超音波検査(エコー):腹部超音波で前立腺の大きさや内部構造を可視化します。
レントゲン検査:骨盤内の構造を確認し、前立腺肥大の程度や周囲臓器への影響を評価します。
尿検査・血液検査:併発している炎症や感染の有無を調べます。
場合によっては前立腺液の採取や細胞診を行い、悪性腫瘍(前立腺がん)との鑑別を行うこともあります。
治療法
最も推奨される治療は「去勢手術」です!
去勢手術によって、男性ホルモン(テストステロン)の分泌が抑えられると、数週間~数ヶ月以内に自然に前立腺の縮小が期待できます。
去勢により約70〜90%の犬で症状が改善します。
その他の治療法
ホルモン調整薬
抗アンドロゲン剤(男性ホルモンを抑える薬)を使用して、一時的に前立腺を縮小させることも可能です。
→ ただし、効果は一時的であり、根本的な治療にはならないため、通常は去勢手術を併用または検討します。
抗生物質治療
前立腺炎や膿瘍(感染を伴った場合)には、抗菌薬が必要になります。
外科的な対応
重度の膿瘍形成や大きな嚢胞ができた場合には、外科的なドレナージや摘出手術が必要になることもあります。
予防と早期発見のためにできること
・若齢期(6ヶ月~1歳頃)に去勢手術を行うことが最大の予防策です。
・中高齢期(5歳以上)からは、年1回の健康診断(血液検査+腹部エコー)をおすすめします。
特に未去勢のオス犬は、7歳を超えたら定期的なモニタリングが重要です。
また、普段から「おしっこ・うんちの様子」をよく観察することも、異常の早期発見につながります!お手隙の際に、よろしくお願いします。