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犬の精巣腫瘍(摘出術)

症例

軟部外科

犬の精巣腫瘍(testicular tumor)は、特に高齢未去勢犬において比較的よく遭遇する腫瘍の一つであり、その多くは偶発的に発見されます。

本稿では、臨床現場において遭遇する代表的な精巣腫瘍3種の特徴を中心に、診断から外科的管理、転移評価、特殊例(潜在精巣例など)への対応までを解説します。


精巣腫瘍
精巣腫瘍


主な腫瘍


◻︎セルトリ細胞腫

  • 一般的に潜在精巣に多く発生

  • 高エストロゲン血症(feminization syndrome)を引き起こすことがあり、乳腺の腫大、左右非対称な脱毛、骨髄抑制(非再生性貧血、汎血球減少)などを伴うことも

  • 転移率は10〜15%程度(腹腔リンパ節、肺など)


◻︎間細胞腫(ライディッヒ細胞腫)

  • 多くは無症状で偶発的に発見されることが多い

  • ホルモン関連症状は稀で、転移の報告も少ない

  • 病理診断で他腫瘍との鑑別が重要


◻︎精上皮腫(セミノーマ)

  • 精巣内で明瞭な腫大を示し、やや硬い腫瘤

  • ヒトのセミノーマと異なり悪性度は低い

  • 転移はまれだが報告あり(特に鼠径・腰部リンパ節)




診断アプローチ

  • 触診およびエコー検査:特に片側性腫大、潜在精巣の確認は超音波が有用

  • レントゲン/CT検査:肺転移や腹腔リンパ節転移の確認に

  • ホルモン測定(エストラジオール、テストステロン):フェミニゼーション症候群が疑われる際には特に推奨

  • FNAまたは生検:精巣は血管豊富で播種リスクを考慮し、基本的には推奨しない。



治療法

  • 両側性去勢術が基本治療

    • 腫瘍の種類にかかわらず第一選択

    • 腹腔内潜在精巣は開腹/腹腔鏡で摘出

  • エストロゲン中毒による骨髄抑制がみられる場合、輸血やG-CSF、抗生物質などの支持療法が必要

  • 転移がある場合は、抗がん剤(ドキソルビシン、カルボプラチン等)の併用も検討されるが、化学療法に対する反応性は限定的



摘出後
摘出後



予後

  • 間細胞腫・精上皮腫:良好

  • セルトリ細胞腫:早期摘出なら良好だが、骨髄抑制例や転移例では予後不良

  • 潜在精巣の摘出が遅れた症例では悪性変化のリスクが高まる



予防と周術期管理のポイント

  • 早期の去勢手術が最も有効な予防策

  • 精巣腫瘍の術後は、ホルモン症状の改善に時間がかかるため、定期的なホルモンモニタリングも推奨

  • 腫瘍側の精巣は被膜外に拡張している可能性があり、切除時には精索周囲の血管管理に注意



まとめ

精巣腫瘍は犬において比較的頻度の高い腫瘍である一方で、その臨床症状や転移傾向は腫瘍型によって大きく異なります。単なる精巣腫大にとどまらず、全身性の内分泌症候群を示すこともあり、見逃されやすいフェミニゼーション症候群や骨髄抑制への注意が求められます。臨床医としては、診断時の全身評価と病理組織診断を踏まえた外科的判断が重要です。

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